心房中隔欠損
[病気の名前]
心房中隔欠損(しんぼうちゅうかくけっそん)
[英語の病名]
atrial septal defect
[略語]
ASD(エーエスディー)
[頻度]
全先天性心疾患の5-10%程度と言われています。先天性心疾患が出生100人あたり約1人と考えると、1000-2000人に1人くらいと考えられます。またこれは単独の患者さんであり、他の心疾患に合併することが多い病気であり、実際にはもっと多くみられます。
[症状・発症時期]
左心房と右心房の間の壁(心房中隔)に穴(欠損孔)が開くことにより本来肺から還ってきた赤い血液(酸素いっぱい)の一部が穴をとおして左心房から右心房に流れてしまい、右心房、右心室、肺動脈の血液が増えてしまいます。これを容量負荷(運ぶ血液が増えた状態)といい、各構造が引き伸びてしまうことになります。
基本的にASD単独の場合は小児期に症状がでることはまれであり、多くは思春期までは無症状です。健康診断での心雑音や学校検診の心電図検査で発見されることが多いです。
心不全や不整脈は基本的に成人期になって発症します。
[自然軽快の有無]
乳児期のASDは自然閉鎖することもあります。
[治療適応]
治療の適応は右心系(右心房、右心室、肺動脈)の容量負荷の証明です。心臓カテーテル検査や心臓MRIを行っていた場合、肺体血流比が1.5から2.0以上(肺血流が体血流の1.5倍から2倍以上ということです)で治療適応としている施設が多いのではないでしょうか。心臓カテーテル検査や心臓MRIを行っていなくても、心エコーでの右心房、右心室の拡大を持って治療適応とすることも可能です。
[手術]
カテーテル治療と異なり、どの位置に欠損孔が空いていても治療が可能です。もちろん心臓の中に空いている穴を塞ぐため、人工心肺(体から還ってきた静脈血を機械に回収して、酸素を取り込み、大動脈へ還す。そうすることで心臓の中の血液が空っぽになっても体の臓器は大丈夫となる機械)を使う大手術であることには違いはありません。日本の心臓外科医の技術は国際的にみても高いため、安心して手術を受けてください。ポイントは手術件数を多く行っているところがよいでしょう。ただし、手術日だけの問題ではなく、術後の外来などもあるため、手術だけを遠くで受けるのではなく、小児科・内科の先生とよく相談し、現実的に通院でき、アフターケアを受けられる施設を選びましょう。
傷口を小さくする術式(MICS)や無輸血手術などもありますが、体格や他の合併症にもよりますので、よく相談してください。
[カテーテル治療]
近年、日本でもカテーテル治療が可能となり、認定施設でのみカテーテル治療を受けることができます。ただし、カテーテル治療には制限があります。器具(デバイスといいます)を留置して、欠損孔を塞ぐのですが、器具は右心房と左心房のそれぞれに円盤(disk)を出して心房中隔を挟んで安定します。そのため、挟む心房中隔が無い患者さんや、あまりに薄くて上手く挟めない方はカテーテル治療は困難ということになります。治療前ないし治療時に経食道心エコーを行い、デバイスを挟む場所があるか確認を行います。
[薬物治療]
欠損孔を塞ぐことを目指した薬物治療はないため、外科手術かカテーテル治療になります。手術やカテーテル治療に漠然とした不安があり、受けることをためらう方もいるかもしれませんが、最も大切な基本は症状が出る前に、心臓の筋肉や血管が痛む前に手術かカテーテル治療を受けることなので、担当の先生とよく相談し、時期を決めてください。
[術後の問題点]
外科手術も、カテーテル治療も術後数ヶ月を過ぎた場合は基本的に運動の制限などもないことが一般的です。ただし、治療までに不整脈が出た方は残存することもあります。また外科手術の場合、手術であけた右心房の切開線などが関わる不整脈が出現することがまれにあります。カテーテル治療の場合はデバイスの挟み方で血が漏れる(erosion:エロージョン)合併症や脱落の合併症が稀に生じます。
[院長からの一言]
治療が必要と言われて驚かれたのではないでしょうか?皆さん「うちの子こんなに元気なのに?」とか「症状が無いのに手術が必要なんですか?」とか「絶対に胸に傷はつけたくないです、カテーテル治療じゃなきゃ嫌です」なんて言われます。でもこの病気のポイントは症状が出る前に手術する、未来の自分(お子さん)のために手術することです。この病気で症状が出るということはすでに心臓がボロボロになってしまっていることを意味します。だから専門医は症状が出る前に、心臓がボロボロになる前に治療がしたいのです。同じ心臓病でも有名な心筋梗塞は高齢の方に発症します。そのため、残り10年の命と言われても頑張ろうってなります。でもこの心房中隔欠損で30-40代で症状が出た場合は、大切な家族や仕事ができなくなってしまいますし、その後の寿命を考えると苦しいまま過ごすのは辛いですよね。われわれ専門医は患者さんがただ生きるのではなく、より活動的に有意義な生活を送っていただきたいと考えます。そのため症状が出る前に治療というのがポイントになります。
また前述のとおり、カテーテル治療は対象者を選びます。日本でカテーテル治療が直接の原因となってお亡くなりになる方はいらっしゃいません。でもこれはしっかりと対象者をセレクトして本当に適応のある方にのみカテーテル治療を提供しているからです。手術と言われてもしっかりと主治医の先生と相談してみてください。ただし、カテーテル治療は一部の認定施設でしか行われておりません。もし通っている施設が外科手術しかできない施設であった場合は、他の施設でもカテーテル治療が行えないのか確認したり、カテーテル治療認定施設にセカンドオピニオンに行くことも有用です。
(注)血行動態の図は後日upします