心室中隔欠損
[病気の名前]
心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)
[英語の病名]
ventricular septal defect
[略語]
VSD(ブイエスディー)
[頻度]
全先天性心疾患の25-35%程度と言われており、出生時点で最も多い先天性心疾患です。先天性心疾患が出生100人あたり約1人と考えると、1000人に3人くらいと考えられます。またこれは単独の患者さんであり、他の心疾患に合併することが多い病気であり、実際にはもっと多くみられます。
[症状・発症時期]
左心室と右心室の間の壁(心室中隔)に穴(欠損孔)が開くことにより本来肺から還ってきた赤い血液(酸素いっぱい)の一部が穴をとおして左心室から右心室に流れてしまい、右心室、肺動脈の血液が増えてしまいます。これを容量負荷(運ぶ血液が増えた状態)といい、各構造が引き伸びてしまうことになります。
また欠損孔が大きい場合、肺血流増加が著しく、(イメージとしては血管がパンパンになり)肺高血圧が生じます。通常大動脈圧(=体の血圧)の1/5〜1/4程度の肺動脈の圧が徐々に増加していきます。そうすると肺に送り出そうとしていた右心室の圧も上昇してきます。また肺動脈は気道(空気の通り道)と並走しており、パンパンになった肺動脈は気道を圧迫したりします。
症状は欠損孔の大きさによって異なり、大きい場合は乳児期(生後1ヶ月前後くらいから)①多呼吸、②哺乳不良、③体重増加不良の3大徴候としてみられます。雑なイメージですが、肺が血がいっぱいで溺れて多呼吸、溺れながらご飯は食べれないので哺乳不良、全身で呼吸し、でも栄養が少ないので体重増加不良と考えるとなんとなく理解できるのではないでしょうか。
小さい場合は、乳児期の上記症状は認めず、心雑音で健診で見つかり、専門医にフォローされ、患者さんごとの状況をみて手術を行うことになります。
非常に小さい場合は、心雑音は認めるのですが、全く無症状であり、手術も行わずに様子をみます。ただし、下記に示す感染性心内膜炎のリスクはあるため、抗菌剤予防の該当者となります。
[自然軽快の有無]
乳児期のVSDは自然閉鎖することもあります。特に膜様部や筋性部のVSDは自然閉鎖することがあります。注意しなければいけないのは流出路のVSDです。大昔にVSDが大きかったと言われた方の中に流出路のVSDを持って見えた方の場合は大動脈弁が変形してしまったことによる閉鎖の可能性があります。これは破裂する可能性があるため、大昔にVSDと言われた場合には注意が必要です。
[治療適応]
治療の適応は右心系(肺動脈)の容量負荷の証明です。心臓カテーテル検査や心臓MRIを行っていた場合、肺体血流比が1.5以上(肺血流が体血流の1.5倍以上ということです)で治療適応としている施設が多いのではないでしょうか。心臓カテーテル検査や心臓MRIを行っていなくても、心エコーでの左心室の拡大を持って治療適応とすることも可能です。
[手術]
基本的には外科手術(心内修復術:心室中隔欠損パッチ閉鎖術)となります。もちろん心臓の中に空いている穴を塞ぐため、人工心肺(体から還ってきた静脈血を機械に回収して、酸素を取り込み、大動脈へ還す。そうすることで心臓の中の血液が空っぽになっても体の臓器は大丈夫となる機械)を使う大手術であることには違いはありません。日本の心臓外科医の技術は国際的にみても高いため、安心して手術を受けてください。ポイントは手術件数を多く行っているところがよいでしょう。ただし、手術日だけの問題ではなく、術後の外来などもあるため、手術だけを遠くで受けるのではなく、小児科・内科の先生とよく相談し、現実的に通院でき、アフターケアを受けられる施設を選びましょう。
また基本的には一期的修復(1度の手術で全部終わり)を目指しますが、他の合併奇形を有していたり、RSウイスル感染などの強力な感染症のあとで状態が崩れたとき、乳児期早期などは肺動脈絞扼術という手術を間に挟んだ二期的修復(手術を2回に分ける)の戦略をとることもあります。
無輸血手術などもありますが、体格や他の合併症にもよりますので、よく相談してください。
[カテーテル治療]
現時点の日本ではまだ認められておりません。欧米や日本以外の東アジア諸国でも行われています。心房中隔欠損のカテーテル治療に比べて、治療後の不整脈の発生率が高いことなどが知られています。
[薬物治療]
欠損孔を塞ぐことを目指した薬物治療はないため、①外科手術か②経過観察(手術適応がない)が基本となります。①の手術までには状態の緩和を目指した薬物治療が行われることがあります。欠損孔が大きい人が対象となり、利尿剤や水分制限が行われます。
[術後の問題点]
手術後、数ヶ月を過ぎた場合は基本的に運動の制限などもないことが一般的です。再手術は非常に少ないです。ただし流出路型の心室中隔欠損患者さんに生じる右室流出路狭窄、肺動脈弁逆流、膜様部型の心室中隔欠損患者さんに時に生じる右室二腔症などは再手術の原因となる可能性があります。心臓外科医がベストを尽くしたとしてもこれらの可能性はゼロにできませんので、術後のエコーをしてくれる小児科医(小児循環器科医)にもよく相談してフォローしてもらうことが重要です。
基本的には運動の制限などはなく過ごせます。心臓の病気だからと引っ込み思案にならず、小児科主治医に相談して運動の制限がないことを確認した上で、色々なことに挑戦してください。
[院長からの一言]
胎児期に元気よく育っていますと言われてきたのに、生後心雑音があり、心臓に孔が空いています、と言われて驚かれましたよね。私も胎児心エコーを専門に行なっている医師の一人ですが、心室中隔欠損を完全に見落とさないようにすることは非常に困難です。後日胎児心エコーのポイントとして記述する予定ですが、胎児期は右心室と左心室の圧力が同じなので、間の壁に孔が空いていても血液が流れず、見つけにくいのです。胎児(心)エコーの目的は胎児期・新生児期を通して先天性心疾患の患者さんをしっかり見つけ、適切な時期に治療を提供することが主目的なので、生後の健診も含めて発見できればそれで十分なのです。胎児期のほうが見つけやすい病気、生後のほうが見つけやすい病気という印象です。今回の心室中隔欠損も生後のほうが見つけやすい病気です。まずは地元の小児科で心エコーを受けていただき診断をつけてもらうこと。そして欠損孔が大きく手術の可能性がある場合は小児心臓手術を行っている施設へ紹介してもらいましょう。
施設選びのコツは本疾患は比較的頻度の多い先天性心疾患なので、小児心臓外科医のいる施設であればたいていどこでも治療可能です。手術件数が多い病院を選ぶのは一つのコツなのですが、術後の外来通院も術後早期は多くあり、その後も定期的に診てもらう必要があるので、通院のしやすい施設という観点でも探してみるといいと思いますよ。
心室中隔欠損が欠損孔の場所によっても特徴があるので、後日タイプ別に特徴をアップしてみますね。
(注)血行動態の図は後日upします